勉強や仕事のパフォーマンスを上げるために、記憶力は不可欠なスキルです。受験や資格取得はもちろんのこと、日々の仕事や学習の成果にも、大きくかかわってきます。記憶力は、鍛えれば鍛えるほど向上するといわれています。でも、なるべく努力しないで記憶力を鍛えたいと思う方も多いのではないでしょうか。
今回は努力せずに記憶力を高める方法として、睡眠にスポットを当てます。睡眠と記憶力の関係を学んで、手軽に記憶力を高めませんか?
睡眠は心身の疲れを癒すための休息である同時に、記憶を脳に覚えさせるための時間でもあります。睡眠中に、脳に記憶が定着するプロセスをみていきましょう。
私たちは睡眠中に、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返し行っています。ノンレム睡眠は、夢を見ない深い睡眠で、この時に脳が休息をとっているのです。これに対してレム睡眠は夢を見ている状態で、身体の疲れを癒しています。
ノンレム睡眠とレム睡眠をワンセットとする睡眠サイクルが、一晩で4~5回繰り返されるのが一般的です。1回の睡眠サイクルは約90分。眠ってすぐに訪れる1回目と2回目の睡眠サイクルでは、ノンレム睡眠の方が長く続き、レム睡眠はわずか数十秒程度です。この最初の2回の睡眠サイクルで、私たちはぐっすりと深く眠ります。この深い睡眠のことを、「徐波睡眠」と呼んでいます。
徐波睡眠は、脳に記憶をとどめるための重要な眠りです。徐波睡眠時に脳は記憶を作り出し、さらには問題を解決し、新たな発想を生み出すという働きを行っています。それだけではありません。その日の嫌な出来事の記憶をリセットして、心を癒してくれているのです。徐波睡眠時には、成長ホルモンの分泌が活発になることも分かっており、寝入りばなの深い眠りは、心身にとって何よりも重要なのです。
一方、朝方に訪れる3回目と4回目の睡眠サイクルでは、レム睡眠の時間が長くなります。そして後半のノンレム睡眠時には、「手続き記憶」を定着させたり、複数の記憶を関連付けて整理したりといった作業が行われています。手続き記憶とは、自転車の乗り方など、体で覚える記憶です。
これに対して、朝方のレム睡眠時では、「エピソード記憶」を脳に定着させています。エピソード記憶とは、“いつ・どこで・だれが・何をしたか”といった、出来事に関する記憶です。
さらに、必要なときに必要な事柄を思い出せるように、記憶の引き出しにラベルをつける作業も行っています。このため、受験などで勉強する時間が増えると、記憶を定着させるために、後半のレム睡眠の時間が長くなります。
このように、睡眠中はノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しながら記憶を整理し、脳に定着させているのです。
眠りの質が悪く、問題解決やアイデアの創造、嫌な記憶のリセットがうまく行われません。これでは、パフォーマンスも下がってしまうことでしょう。
また、睡眠時間が短いと、睡眠サイクルが途切れてしまいます。特に、後半の「手続き記憶」や「エピソード記憶」の定着が行われませんから、頑張って勉強をしても記憶に残らず、無駄になってしまうのです。
一晩の眠りで、睡眠サイクルを4回~5回繰返すことが重要です。睡眠サイクルの長さは個人差がありますが、通常90分~120分程度です。スマートフォンの睡眠アプリで、自分の睡眠サイクルを計測してみるのも良いでしょう。
睡眠アプリを使うときに気をつけたいのは、アラーム機能です。睡眠アプリには、レム睡眠時にアラームを鳴らして起こしてくれる機能があります。レム睡眠時は眠りが浅いので、スムーズに目覚める効果があると人気です。
でも朝方のノンレム睡眠は、記憶の定着に欠かせない睡眠です。記憶の定着を行っている際にアラームが鳴ると、途中で定着作業はストップしますから、記憶は定着しませんし、目覚めの爽快感も失われてしまいます。ベストなのは、睡眠サイクル4回目のレム睡眠で記憶の定着作業を終えた後、5回目に訪れるレム睡眠時に起きることです。記憶も定着し、スッキリと起きられます。
5回目のレム睡眠で起きるためには、最低でも7時間半~8時間程度の睡眠時間が必要です。十分な睡眠時間を確保し、ぐっすりと眠れる環境を作りましょう。
十分な睡眠が得られない場合は、昼寝をするのも効果的です。アメリカの大学で、昼寝と記憶の形成についての実験が行われ、昼寝による徐波睡眠でも、記憶力が向上することがわかりました。昼寝で徐波睡眠を活用するためには、60分~90分の睡眠が必要です。通常、眠ってから30分後に徐波睡眠が訪れます。60分の睡眠なら徐波睡眠が得られます。
科学雑誌の「My Science Academy」の記事によると、昼寝の時間は60分が理想的だと
いうことです。特に、人の顔や名前を覚えるのに最適だと発表されています。ただ、睡眠サイクルの途中で起きるので、しばらく頭がボーッとすることがあるそうです。
90分の昼寝なら、睡眠サイクルを1周します。レムとノンレムの両方の睡眠が取れるので、しっかりと記憶を定着させることができます。目覚めたあとも、頭はスッキリしています。
良質な睡眠は、記憶力の向上に欠かせません。でもその効果をより実感したい方向けに、スマートドラッグが販売されています。もともとは、アルツハイマー病やパーキンソン病などの治療薬として開発されました。脳の機能が向上するため、記憶力や集中力、判断力が求められる学生や起業家などのエグゼクティブ、ビジネスパーソンから注目を集めています。良質な睡眠を得ると同時に、スマートドラッグを上手に活用すれば、今以上のパフォーマンスが発揮できることでしょう。